例題


 上のデータは,ある評価法(3段階評価)を用いて,被検者10人(a〜j)を対象に,検者A〜Eの5人で評価して判定した結果のデータです. 例えば検者Aはaを1と判定しています.データはかならずこの形式で入力してください.
 解析したいのは,@ある評価法を用いて,被検者a〜iを検者A〜Eによって評価し,再現性(信頼性)はあるかどうかを知りたい.とします.
 別に,検者A〜Eを検者Aのみとし,Aある評価法を用いて,被検者a〜iを検者Aによってくり返し5回評価し,再現性(信頼性) はあるかどうかを知りたい.でもよいです.
@上表をEXCELに入力して,コピーします(ラベル[文字]部分はコピーせずデータ数値部分のみ).
ARを開いてコマンドライン先頭>から「x<-excel.w(5)」と入力します.xはR上でのデータ名(とりあえずこのまま入力してください), (5)は,5列のデータという意味です.もし自分のデータが7列であれば,「x<-excel.w(7)」と入力します.
B入力が完了したら,まずはENTERキーを押します.
Cその後,コマンドライン先頭>から
>ICC.CI(x,95) 
と入力し,ENTERします.”95”は95%信頼区間の意味です.99とすることで,99%信頼区間も指定できます.
> ICC.CI(x,95)
        estimate  lower bound-95%  upper bound-95%
ICC(1,1)  0.2668539   0.02914107   0.6399035
ICC(1, 5 ) 0.6453804  0.13049438   0.8988383
ICC(2,1)  0.2800000   0.05134072   0.6433879
ICC(2, 5 ) 0.6603774   0.21296788   0.9002079
ICC(3,1)  0.3075758   0.05525117   0.6742791
ICC(3, 5 ) 0.6895380   0.22625289   0.9118987
 全てのICCと,信頼区間が出力されます.
 上述の@の場合は,ICC(1,1)を参照します.estimateがICC(1,1)の結果です.Aの場合は,ICC(2,1)を参照します.
estimateがICC(2,1)の結果です.ICC(3,1)はさしあたり気にしないでください.再現性が高いとは,ICCが,およそ0.7以上のときです.

範囲制約性の問題

 ICCは被検者のデータのばらつきが大きいとき,高くなる性質を持っています.つまり,健康な20歳代の握力を対象としてICCを求めるときよりも, 健康な20歳代から70歳代までの握力を対象としてICCを求める方が高くなります.対象者の年齢に幅があれば値はばらつきますので,ICCも高くなります.
 そこで,SEMを求め,これを比較する対策法があります.
   例えば上の例の,検者A〜Cのデータと検者D〜Eのデータで範囲制約性の問題がないか調べたいとします.SEMは
>sem2(データ名)
で求められます.
@EXCELの検者A〜Cのデータをコピーし,Rでコマンドライン先頭>から「x<-excel.w(3)」と入力します.これでxというデータに検者A〜Cのデータが入ったことになります.
A同様に,EXCELの検者D〜Eのデータをコピーし,Rでコマンドライン先頭>から「y<-excel.w(2)」と入力します.これでyというデータに検者D〜Eのデータが入ったことになります.
BまずRで,ICCを求めます.関数はICC.CI(x,95)とICC.CI(y,95)です.
> ICC.CI(x,95)
           estimate  lower bound-95% upper bound-95%
ICC(1,1)   0.2297297  -0.12444906     0.6647228
ICC(1, 3 )  0.4722222  -0.49706599     0.8560700
ICC(2,1)   0.2660944  -0.05116034     0.6725701
ICC(2, 3 )  0.5210084  -0.17097532     0.8603794
ICC(3,1)   0.3100000  -0.07083631     0.7193753
ICC(3, 3 )  0.5740741  -0.24758495     0.8849309
> ICC.CI(y,95)
        estimate   lower bound-95% upper bound-95%
ICC(1,1)   0.4626866   -0.16254582    0.8303722
ICC(1, 2 )  0.6326531   -0.38819036    0.9073261
ICC(2,1)   0.4782609   -0.09528997    0.8322453
ICC(2, 2 )  0.6470588   -0.21065306    0.9084431
ICC(3,1)   0.5076923   -0.13592367    0.8499581
ICC(3, 2 )  0.6734694   -0.31461034    0.9188944
 ICC(2,1)はy,すなわち検者D〜Eの方が信頼性は高いと判断します.
しかし,範囲制約性の問題があるのでSEMを求めて検討してから,ICCが高い低いと判断しなければなりません.
SEMは,被検者のデータそのものの大小に影響されず,純粋に測定間の誤差を表します.そして,SEMは小さいほど,データのバラツキが少ないことになります.
 sem2(x),sem2(y)と入力すると,以下が出力されます.
> sem2(x)
  SEM   lower bound-95%  upper bound-95%  lower bound-99%  upper bound-99%
0.7149204  0.5402029        1.0572418     0.4975959      1.2118257
> sem2(y)
  SEM    lower bound-95%  upper bound-95%  lower bound-99%  upper bound-99%
0.5962848  0.4101457        1.0885836     0.3683130      1.3581059
 SEMはxが0.7149204,yが0.5962848で,xの方が大きくなっています.つまりxのデータの誤差は大きいことがわかります.
 これはICCが小さいこととも関連します.SEMが同じということは誤差自体は同一なので,ICCの値が異なっていても高い低いは議論できません.
 逆に,SEMが有意に大きい小さく,かつICCが大きい小さいときは,根拠を持って高い低いの議論が出来ます.
 有意に大きい小さいを判断するには信頼区間が役立ちます.
 この例では,xのSEMの95%信頼区間は[0.5402029〜1.0572418]です.yのSEMの95%信頼区間は[0.4101457〜1.0885836 ]です.これらの信頼区間はオーバーラップしているのでICCの値を単純に比較すれば高い低いとなりますが, 有意にICCが高い低いとはいえないことになります.

うえの2つの表で,左の表と右の表では,左表の被検者eと,右表の被検者ほの値が異なるだけです.
「e」は「1,3,1」で「ほ」は「11,13,11」です.
ほ=e+10という関係にあり,データのバラツキ自体は差がありません(それぞれ検者の差は,2と-2で同一).
単に定数10だけ高くなっているということです.ICCを求めてみると,左はICC(2,1)=0.266,右はICC(2,1)=0.939です.
「右表の信頼性は高い」ということになります.しかし,ほ=e+10となっているだけで,データのバラツキ自体は差がありません(それぞれ検者の差は,2と-2で同一).
そこでSEMを求めると,両者ともSEM=0.7149204と同一になります. 

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