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事業概要

1.事業の必要性と目的

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 弘前大学では原子力関連施設が多数設置されているという青森県の立地特性を背景として、文部科学省特別経費の支援を受け、「緊急被ばく医療支援人材育成及び体制の整備」事業に取り組んできました。こうした取り組みが図らずも福島原発事故に活かされることとなり、事故発生直後から多数の支援人材を福島に派遣してきました。しかし、支援活動を通して、想定を超えた多くの課題が顕在化したことも事実です。大規模放射線災害における避難住民への対応や心のケアの重要性、放射線リスクコミュニケーションの必要性、中・長期的放射線影響に関する研究者の絶対的不足、国民の放射線に対する知識・関心の高まりと不安の拡大といった課題に対応するためには、より高度で専門的な判断力と実践力を備え、統括的に問題解決できる被ばく医療の専門家が不可欠となります。

 このことから、本事業では、これまで整備を進めてきた被ばく医療教育体制を基盤として、今後の緊急被ばく医療に対応できる医療者及び適切な放射線リスクコミュニケーションの指導を担う人材の底辺拡大を行うとともに、より高度で実践的な緊急被ばく医療人材育成プログラムを開発し、日本学術会議の提唱する国際標準に準拠した高度実践看護師等を視野に入れた“グローカル”な被ばく医療人材育成の拠点を形成することを目的とします。

 世界有数の原子力関連施設を保有する我が国は、被ばく医療人材育成に率先して取り組み、世界に向けて成果を発信していく必要があります。

2.事業の取組内容

●国内外の関連機関との連携の下、「被ばく医療人材の高度専門化」と「放射線基礎教育の充実と底辺拡大」を柱とした緊急被ばく医療人材育成プログラムを開発する。

●国際標準に準拠した高度実践看護師制度や日本看護協会が認定する専門看護師を視野に入れた被ばく医療人材育成の拠点を形成し、新たに高度で実践的な大学院教育プログラムを構築する。

●学校教員及び教職選択学生に対する放射線リスクコミュニケーション教育を行うことで、放射線基礎教育の充実と底辺拡大を図る。

●被ばく医療においては長期的な健康管理が基本となることから、後年必要となる放射能拡散地域の環境影響調査や生物学的影響調査・研究及びデータの収集・蓄積を行う。

●調査・研究の成果は、各講義で最新の教材データ等として活用し、演習では調査活動に学生を同行させ、調査研究手法を体得させるなど、教育へ還元する。また、市民に向けた放射線の正しい知識の普及にも活用する。

3.事業の実現に向けた実施体制等

 本学の被ばく医療総合研究所と保健学研究科を推進母体に、医学研究科、医学部附属病院高度救命救急センターと有機的な連携を図ると共に、学内各研究科や放射線医学総合研究所、長崎大学等の国内外の協力機関及び青森県との連携により事業を展開します。
現在学内においてタスクフォースを立ち上げ、国際標準に準拠した高度実践看護師制度や日本看護協会が認定する専門看護師を視野に入れた被ばく医療人材育成のための大学院教育プログラムに関する協定の締結に向けた検討を進めています。

用語解説

緊急被ばく医療

:検査や治療などによる放射線被ばくから放射性物質が大量に放出されるような異常事態での被ばくまで広い範囲における事象に対し、通常の医療に加え被ばくもしくは放射性物質による汚染への対応を要する医療を指す。放射線に関する専門知識を有する医療スタッフと線量評価や核種分析、除染、放射線管理、放射線防護の専門家が連携・補完し合い、的確な医療を提供する。また、当該事象による患者及び地域住民の健康不安に対し説明や心のケアを行うことも含む。

グローカル

:全世界を巻き込んでいく流れである「世界普遍化」(globalization)と、地域の特色や特性を考慮していく流れである「地域限定化」(localization)の2つの言葉を組み合わせた混成語glocalizationであり、地域から世界に向けた情報発信を主とする過程を意味する。

放射線リスクコミュニケーション

:望ましくない事態を引き起こす可能性のある“放射線リスク”について、個人、機関、集団間での情報や意見のやりとりの相互作用的過程をさす。この過程が一方的であったり、一方にとって必要な情報がなく不十分な状態では、放射線に対して「怖い」といった感情が生じ、集団や住民的に不安が高まる。

高度実践看護師

:ケア(看護)とキュア(治療)の融合による高度な看護学の知識・技術を駆使して、対象の治療・療養過程の全般を管理・実践することができる看護師で、看護系大学院修士課程以上の教育による質の保証が必要であると、日本学術会議の提言の中で定義付けしている。なお、米国など世界的には既に制度化され活躍している。

(提言 高度実践看護師制度の確立に向けて:2011年9月29日)

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