組織の修復過程

 

T.組織の特徴と回復期間

1.骨

1.1.骨折の治癒過程

@第1期(骨折血腫期)8〜10日

 骨膜・骨髄・筋肉・血管が損傷され,血腫を作る→損傷血管が収縮して出血が止まると炎症が起こり,血腫は組織化→骨膜肥厚→血管多くなる→細片の骨髄は血液と混じって灰白色の組織に変わる→凝固した血液は赤色の組織となる→小骨折片はこれら増殖した組織の中に埋もれる。

A第2期(骨一次性仮骨形成期)10〜25日

 増殖した組織は周囲と明らかに区別し得るようになり,白みがかって線維軟骨の硬さになる(初期仮骨)→骨膜を通じて癒合する

B第3期(造骨細胞増殖・分化期)20〜60日

 この期間は年齢や健康状態により異なる。

初期仮骨は縮小→全体が骨になる(骨海綿質の性質も持つ)

C第4期(硬化期)50〜6ヶ月

 海綿骨様仮骨は硬い骨に変わる(終末仮骨)

D第5期(改変期)4〜12ヶ月

 正常な骨膜に包まれた完全な骨となる。

 

1.2.骨癒合の速度と骨の種類

 海綿骨:6

 皮質骨:918

     脛骨骨幹部−16

     上腕骨骨幹部−10週で外固定除去できる

     中足骨中手骨−45週,外化骨による架橋形成が十分なため

 

1.3.骨折治癒に影響する因子

a)年齢

若年では治癒が早い。

b)ビタミンC

c)電流刺激

微弱な電流(直流→交流)による電気的仮骨の発生を証明(骨圧電気現象;保田・深田,1953

d)受傷の状態

軟部組織の損傷が大きいほど治癒は遅れる

e)受傷前からの状態

皮質骨(長管骨,骨幹部など)は治癒が遅れ,海綿骨は早い。

f)固定の状態

牽引力が適当であれば仮骨形成は促進される(小川,1966

 

例:下記表に基づいて,免荷期間を設定するのが一般的。ただし,年齢,損傷形態,治療などを考慮して,若干の変更を行うこともある。髄内釘やプレート固定では,通常これよりも早期に負荷が可能である。

 

表 骨癒合期間(児玉,1966)

 

治療期間(週)   治療期間(週)
中手骨 2 上腕骨幹部 6
肋 骨 3 上腕骨頚部 7
鎖 骨 4 下腿骨・大腿骨 8
前腕骨 3 大腿骨頚部 12

1.4.骨移植(bone graft)

 骨の損傷や骨関節疾患に対し,骨新生を誘発し,あるいは骨欠損部を補填して失われた骨の形態と支持機能を獲得させること。

 骨細胞は全て死滅して骨形成には関与せず,自家骨移植といえども表層の一部の細胞を除き細胞成分は死滅する →移植骨は一旦吸収 →移植母床からの新生血管の進入と骨芽細胞の分化によって受骨者自身の骨に置換される。

@第1〜2期

 移植骨に対する母床側の非特異性反応。骨芽細胞や破骨細胞の前駆細胞が増殖

A第3期(1〜4週)

 炎症が消退した後,起こる反応。骨誘導現象,骨芽細胞の増殖が起こる。組織不適合に基づく,遅延性過敏反応が起こる。

B第4期(数ヶ月)

 移植骨の網状構造の空隙に毛細血管や新生骨が進入し成長していく時期。骨伝導の過程である。

C第5期(2〜20年)

 骨の吸収と新生骨の置換が続く。置換は@若年,A移植骨量が少ない,B移植骨と母床の密着,C同種骨より自家骨,D皮質骨より海綿骨,E移植骨は大塊より細片,の方がより早い。

例:移植骨が存在する場合,状態にもよるがX線写真上で仮骨形成が見られるまで荷重は行わない。仮骨形成が見られても荷重は慎重に行い,X線写真で骨折部の転位を認めないならば,次の段階という様に行われていく。

1.5.異所性骨化(ectopic ossification)

 脊髄損傷の合併症として有名。脳及び脊髄の障害に多い。原因として確定できる所見は無いのが現状。

a.発現時期

 発生は,受傷後1〜6ヶ月が多いが,確実ではない。X線写真に写らなくとも,腫脹,浮腫などがみられ進行している時期(stageT)がある。進行は6〜14ヶ月で,手術療法は骨化の進行が停止するまで待つ必要がある。

b.好発部位

 股,膝,肘,肩関節の大関節に多い。手指関節の小関節には発生し難い。

2.軟骨

 血管,リンパ管,神経組織を欠いているため,通常の組織に見られるような,壊死と炎症に引き続く細胞増殖,細胞分化による修復という過程を辿らない。

3.皮膚

3.1.創傷(wound)

 創→開放性で皮膚あるいは粘膜などの体表面の破綻を起こしている外傷

 傷→閉鎖性の外傷

※擦過傷以外,膠原繊維の増殖が見られるため,必ず瘢痕を形成する。切創(手術創など)がすぐに縫合されたときには組織の損傷は少ないので瘢痕形成も最小限度に止まる。

3.2.治癒過程

第1期癒合

 ・切創(手術創など)→皮膚欠損がないため早期に治癒する。

 ・受傷後

@浸出期

   2時間−出血,浸出液,浮腫が著明

6〜8時間−多核白血球出現。血管拡張でfibrinの析出。

  16時間−壊死細胞はphagocytosisが始まり取り除かれる。

  2日−再生現象。肉芽組織の形成。

  3日−繊維芽細胞が析出した凝血中のフィブリン網及び新生血管に沿って増殖

  4〜6日−上皮はいったん底部まで上皮に覆われてしまう。繊維芽細胞よりトロポコラーゲンが分泌され,はじめて創治癒に大切な膠原繊維(collagen fiber)が生成される。張力に抗せるようになる。

A繊維形成期

  2〜4週−膠原繊維の形成。繊維網を作って創を組織化していく。皮膚の抗張力は増加していく。10〜14日もすれば,抗張力は最高になる(抜糸はこの時期が適する。しかし,@縫合糸,ステープルによる瘢痕が強く残る,A感染の恐れもある,ことから,これ以前に抜糸することも多い)

B成熟期

 瘢痕形成。新生血管は次第に退化・消失。膠原繊維生成が低下。

第2期癒合

 ・皮膚欠損のあるとき(縫合閉鎖されなかった創)で,治癒過程は第1期と同様。しかし,時間を要する。

◎抜糸の時期

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体幹(胸部,腹部,背部)------ 7日前後

頭部 ------- 6〜7日(血行がよく,張力が少ないため)

顔面・頚部 ------ 5〜6日

四肢(関節付近)-------  10〜14日(血行不良で,運動による張力変化が大きい。抜糸後も減張固定しておくと良い)

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※老人,栄養不良の場合は,少し遅らせる場合がある。小児は,1〜2日早くても良い。

◎影響する因子

 蛋白欠乏,感染,血行不全など。亜鉛の関与も指摘されている。

 ※関節部の皮膚では張力が掛かり血行も悪く,治癒過程が遅延する場合もあるため,抜糸の期間を遅らせる。

4.腱

 治癒過程は確定できる知見が未だ無い。腱癒合と周囲組織との癒着を防止して滑走機能を残すことが重要。

 腱鞘内の腱は非常に血行に粗(パラテノンを有する腱は血行に富む)。腱自体に再生能力はないと考えられている。→腱癒着防止のため周囲を覆ったり,早期から動かすと血行を受けることができなくなり,壊死する。

・治癒過程

@受傷〜3週−再断裂の起こりやすい時期

A3〜4週−腱断面に繊維細胞及び繊維芽細胞の増殖が著しく,腱の抗張力も強くなる。他動運動はこの時期から徐々に始める。小児の場合は,更に1w程遅らせる場合もある。

B5〜6週−癒合はほぼ完成。新生組織は正常腱組織ではなく瘢痕組織である。

例:アキレス腱断裂の固定期間は,保存療法では5〜8週が一般的。足自然下垂位で断端接触が得られる。腓腹筋の機能不全や再断裂の起こる可能性があるので,8週とする場合も多い。観血的治療の場合,一般に固定3〜4週,全荷重5週,軽いスポーツ10週といった具合。スポーツ復帰には5M程度かかる。double looped suture法の場合,固定期間は設けないという特殊な例もある。

◎アキレス腱断裂−手術か保存か?

 手術例−筋力回復:健側比83.3〜84.9%(この回復には1年程度要する)

 保存例−筋力回復:64.5〜75.0%            (Shields,1978)

 手術例−再断裂:4%

 保存例−再断裂:8%              (Nistor,1981)

5.靱帯

・治癒過程

 @早期(急性炎症期;0〜72day)

 断裂部は出血により充填される。炎症性細胞の浸潤が起こり,fibrocyteが浸潤し,線維瘢痕を形成する。8〜24Wで滑膜よりの血行が形成される。

 A中期(修復及び再生期:3〜42day(6週まで))

 断裂部に血管の新生が起こり始め,fibrocyteによる線維瘢痕の形成は更に活発になる。線維瘢痕のコラーゲン線維は徐々に同一方向に配列してくる。この配列には,靱帯の長軸方向への適度な張力が大切である。3週で,抗張力が生じてくる。

 B後期(再構築及び成熟期;7〜52週)

 細胞成分や血管成分は徐々に減少し始め,残されたfibrocyteも成熟し,扁平化してくる。力学的にもその強度が徐々に増加してくる。7〜8Wで,外見上は普通になる。12週で再建靱帯が再生される。固定は6Wが原則。8Wで健常の5割,20Wで8割に回復(福林,1980)。

 靱帯は断裂端の整復が不完全であるほど瘢痕は大きく,修復も不完全で,張力も弱い。手術的に修復され,適切な固定を受けた靱帯は瘢痕が少なくコラーゲン形成に富み,早期に正常に近い靱帯構造へと分化していく。保存的に修復された靱帯は分化しない大量の瘢根を作り,瘢痕の量は固定期間に反比例する。保存療法でも観血的療法でも修復の早さに差はないが,観血的療法では“質”の改善が期待できる。

◎靱帯完全断裂後の関節固定期間

非荷重関節:3〜4週間

荷重関節:6週間

※靱帯は部位(膝または足関節),種類(関節包靱帯または関節内靱帯)によりバイオメカニズム的特性が異なるため,一律した後療法は行えない場合がある。

6.筋

@1〜2日−myoblastという筋紡錘の細胞が出現。

A5〜6日−再生中の筋線維が出現。

B2週−ほぼ正常筋線維となる。

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